Q3
 DEQXはスピーカーを室内で測定しますが、目的はなんですか。
 

A3  スピーカーやマイクロフォンなどは周囲の音響的な条件で特性が大きく変化します。このため、こうした機器を測定する場合には結果(データ)に再現性(普遍性と客観性)を持たせる意味で無響室のような一定の環境下で測定を行います。




< 小型2Wayスピーカーを無響室で測定したデータ >


■ グラフは右方向が時間、縦軸は音圧の振幅を表したものです。時間にして約7mS〜10msに現れた波形がスピーカーから出た音を示しています。その後は音が自然に減衰 していきますが、無響室なので壁や床などの反射音が見あたりません。

 一方、DEQXは貴方のスピーカーシステムを貴方の部屋で測定します。通常の部屋では大なり小なり、必ず反射音が発生し、スピーカーからの音が直接マイクロフォンに入る「直接音」の他に、この「反射音」が時間の経過とともに測定用マイクロフォンに入ってきます。
 DEQXは2種類の測定と、2種類の特性を補正します。一つはスピーカーシステムそのものの再生特性を理想的な状態に補正することです。二つ目は室内の定在波などを補正するルーム補正です。
 スピーカーシステムを単体として理想的な状態に補正するためには反射音を取り除く必要があります。DEQXの調整用ソフトにはこの直接音と反射音を分離する仕組みが用意されているのです。

■ 直接音のみをデーターとして使用するための操作



< 小型2Wayスピーカーを部屋で測定したデータ >

■ 約7mS〜10msに現れた波形がスピーカーから出た音を示しています。その後は音が減衰していきますが、11.4mSのところ(緑色のカーソル線のすぐ右側)に目立つ波形があります。これがマイクロフォンに入ってきた最初の反射音です。その後も何回か目立つ波形がありますが、これらも後方の壁や天井からの反射音と考えられます。

■ 緑色のカーソル線の左側はスピーカーからの直接音のみ、そして右側は反射音を含んだ波形、と言う具合に直接音と反射音をこの画面を使って分離します。

■ もし、コンピューターがこの画面のカーソル線のように反射音の位置を特定出来れば自動的に直接音と反射音を分離できますが、現状ではこのカーソル線を移動してデータを切り分ける作業は貴方に行っていただきます。この図では反射音の位置が比較的判りやすい状況にありますが、スピーカーの種類や、設置状況、床や壁からの反射音が複雑に発生している状況ではとても複雑な波形となり、コンピューターでの判断よりは人間の感性で見極める方がよほど正確要です。

■ このように、DEQXの設定時に人間の感覚が必要とされる場面が数カ所あります。この反射音をカットする場面もその一つという訳です。

■ ところで、このデータでは貴方が移動したカーソル線は11.4mSのところにあることが画面の右上に表示されています。これは11.4mSまでが直接音であることを示しており、周波数に換算すると約90Hz程度までは反射音の影響を受けない信頼出来るデータだということになります。無響室の例では25mSのところに僅かな波形の乱れがあり、これを反射音と見なすと、周波数では40Hzまでが有効なデータとなります。(この僅かな乱れは無響室の入口扉を開けて測定したために扉で反射した音で、本来は20Hz程度まで測定可能な無響室です)

■ 室内で測定する場合、可能であればスピーカーを部屋の中央付近に移動して反射音がマイクに入るまでの時間が出来るだけ遅くなるようにセットするのがベストですが、大型のスピーカーでは困難な場合が多いと思います。現実的には反射音が10mS以降に現れれば、約100Hzまで信頼できるデータが測定できたことになり、DEQXによるスピーカー特性の補正には十分な効果が発揮されますので、あまり神経質に考える必要はありません。

スピーカーの測定と設定が終わると、コンピューターが計算して補正フィルターが作られます。このフィルターをDEQXに転送します。スピーカーシステムを本来の位置に戻し補正された状態のスピーカーからもう一度測定信号を再生して今度は室内の反射波を含むトータルな周波数特性を測定します。



< Room測定の結果と自動補正の様子(Lchのみ表示) >

■ DEQXはスピーカーシステムの、周波数特性、位相特性、群遅延特性、ステップ応答特性などを総合的に補正します。それぞれの結果はそれぞれのグラフで確認できます。例えば上のグラフは100Hz〜30kHzまでが±0.2dB以内に補正されたスピーカーから出た音がリスニングポジションにどのように伝達されるかを示したものと言えます。

■ スピーカーの周波数特性は通常-10dBまでの値で表現されます。上のグラフをこの条件で表現表示すると30Hz〜30kHzまでが再生特性となり、しかもこれがリスニングポジションであることを考えると驚異的な特性であると言えるでしょう。

■ これはDEQXによる補正効果の一つですが、周波数特性上の幅の広いピークやディップは再生音に重大な影響を与えること火を見るよりも明らかですが、なぜかスピーカーや部屋の音響特性では意外に軽視されている現状はいささか不思議と言わざるを得ません。

■ もう一度グラフを見ると、300Hz以下のところに5個のピークやディップのEQカーブが円いマークとともに表示されています。これはDEQXによる室内の定在波を自動的に補正した結果を示しています。

■ この定在波の自動補正機能をONにするとステレオの定位感が見事に安定し、水平方向だけでなく奥行き方向まで、精密に、そして豊かに再現されるようになります。この事実を一度体験すると、室内に発生する定在波がステレオの定位感を如何に不安定なものにしているかが良く判ります。

■ DEQXが貴方の部屋でスピーカーを測定する理由は、貴方のスピーカーシステムを無響室に持ち込まなくても、貴方のお部屋で十分な精度の測定が出来る方法を実現したからです。そして、貴方のお部屋の伝送特性を理想的な特性に補正されたスピーカーからの信号で測定し、定在波の影響を軽減することで、貴方の再生システムのサウンドをトータルで改善することが出来るからです。